11月27日の土曜日に、日経BP主催のAndroid Usability Seminar 2010に参加してきました。Android開発については初心者レベルのボクでしたが、テクニカルな話だけではなくユーザビリティの概論的な部分やユーザビリティテストのやり方などのセッションが大変面白くツボにハマったので、その辺りを中心にレポートしたいと思います。
【プログラム】 13:00~13:05 『Android Application Award 2010-11 Winterの紹介』 日経BP社 ITpro 菊池隆裕 13:05~13:55 『使いやすさをデザインするということ』 講師:山中俊治氏(慶應義塾大学大学院教授、LEADING EDGE DESIGN代表) 14:00~14:50 『Flash PlatformによるAndroidアプリ開発のこれから』 講師:Flashデベロッパー/テクニカルライター 池田 泰延氏 15:10~16:00 『ユーザビリティと満足度向上の勘所』 講師:エイチアイ インタフェース技術部門デザイン課 工藤重人氏 16:05~16:45 『「アメーバピグ」に見るデザイナーと開発者の協業』 講師: サイバーエージェント 新規開発局 システムディベロップメントグループ 切通伸人氏 サイバーエージェント 新規開発局 フロントクリエイティブグループ 馬場絵美氏
大きく4つのセッションがありましたが、デザイン・ユーザビリティの概論的なセッションと、実践的な技術系セッションが交互にくる感じでバランスが良かったんじゃないかと思います。特に一番初めの慶應義塾大学大学院教授、LEADING EDGE DESIGN代表の山中俊治氏の講演では、ユーザビリティ検証の大切さを思い知らされるとともに、ユーザビリティ検証のポイントを的確に説明されており目から鱗状態だったので、以下出来る限り思い出して書き残しておこうと思います。
Suica自動改札機のアンテナ面の最適化
山中先生のセッションでいきなり驚いてしまったんですが、みなさんもほぼ毎日利用していると思われるJR東日本の「Suica」の自動改札のユーザビリティ改善に山中先生自身が一役かっていたのだそうです。この時の裏話をセミナーに先立って、ご自身のブログにUPされていたのでリンクしておきます。
・山中俊治の「デザインの骨格」 » あらためてSuicaの話でもしようか その1
・山中俊治の「デザインの骨格」 » あらためてSuicaの話でもしようか その2
上の中央の写真がユーティリティ検証に使われた5つの試作機。この真ん中の手前に傾斜があるものが特に結果がよく、右の写真のプロトタイプの原型になったとか。「手前に傾いていること」「アンテナ部分が光っていること」が被験者の注意を引いたようですが、このようなシンプルな結果もユーザテストを行わないと気が付かなかったかもしれないのです。その後、「ふれてください」という文字による案内が有効であることや、アンテナ部分と誤認しないよう警告表示がおかれるべき位置の修正などが行われ、改良版では、5割近かったエラー率が、1%以下に下がったといいます。
最終的に、山中さんが決めたアンテナ面の傾斜は「13.5度」になり、現在も全国で使われているICカード改札機のほとんどが同じ角度なんだそうです。後発の機種が、成功したデファクトモデルを参考にするのは当たり前ですが、何もヒントがない状態からユーザビリティ検証を頼りに正解を導き出した手法は見事としか言いようがありません。
キッチンツールの開発(OXO 大根グレーター)
Suicaの自動改札機や、車、カメラ、時計などのプロダクトデザインの他に、キッチンツールのデザインも手がけたことがあるそうです。美しく使い易い大根おろしの例でみてみましょう。
日本では伝統的なおろし金の形は決まったものですが、ここでも山中先生はユーザテストから問題点を見つけ出します。
- おろし金には取っ手がついてるけど、実はほとんど使っていない
- 取っ手をなくして、下に置くことを想定し、スロープをつくっておさえるようにした
- キッチンは狭くておくところがないので、縦に立つようにした
また、職人がつくるおろし金ではよくすれるのに、既製品のプラスチック性のものはしばらくすると手応えがなくなる問題があった。これは、同じ方向にすっていると歯が削った部分がレールのような跡になってしまい、すべって削れなくなるからだそうで、対応として歯の並びをランダムになるように変更したのだそうです。こうすることで、常にすった手応えがでるようになったとか。
3000円くらいと比較的高い値段設定にも関わらず、大ヒット商品となったそうです。
ユーザビリティ調査(テスト)4つのポイント
上記、事例をふまえて4つのポイントにまとめてユーザテストのコツを教えてくださいました。
- 一期一会と考え、周到に準備する
- 「失敗したらやり直せばいい」と思いがちだが、ちゃんとやろうとするとすごい時間がかかる。
- 2度とできない可能性がある。
- 被験者に負担をかけないように配慮する
- 多重の記録装置と多数の観察者
- 分単位のタイムテーブルとマニュアルの整備
- 順番にやってもらう(一緒にやるとマネしちゃう)ので時間かかる
- 同じ説明をしたうえで実行してもらわないといけないので、マニュアル化大切
- 実際の使用環境に近い環境を用意する
- テストは企画の一環である
- 「ユーザテストは最後にやれば良い」は間違い!
- フレキシブルなプロトタイプを用意する
- 少数の被験者をていねいに観察する
- 沢山の被験者を集めるのはマーケティング的な意味になる
- ユーザビリティテストが目的なら少数の被験者でいいのでじっくりと観察する
- 観察の直後にアイデアを出し合い、速やかに実装、再び調査を行う
- 参加することに意義がある
- 企画者自身も使ってみる(自分が使うシーンを他人と共有する)
- 被験者の行動を関係者全員で観察する(体験と問題点の共有が出発点)
- 一緒に見ないと、それぞれの体験をベースに話しをしてしまうのでズレる
- キーパーソンの参加が必須(報告書を見るだけではダメ)
- 報告書からの主観を排除する。自分で判断できるように。
- 時間がないときは・・・
- 被験者を減らす(内容を薄めるのは危険)
- 一人でも二人でもいいから関係者じゃない人でテスト(リテラシの低い人)
- クライアントに参加してもらう
- 早いうちにやる
- 後で膨大な手間とコストをかけて修正する?
実際に、ユーザビリティテストを繰り返してきた山中先生から出されたポイントはどれも納得感のあるものばかりでした。特に、時間がないときのコツは目からウロコ・・・、有りがちなシチュエーションですから肝に銘じたいところです。
まとめ
他にもiPhoneを使いこなす赤ちゃんの動画や、最後のQ&Aなども為になるお話が満載だったのですがちょっと長くなったのでこの辺で。
思い返せば、4つのセッションの内FLASHの開発環境の話だった池田氏のセッション以外3つのセッションでは何かしらユーザビリティテストの話題がでていました。ユーザビリティを専門に研究しているような方々でさえ、ユーザビリティの正解はないとユーザビリティテストの重要性を説いているわけですから、我々はもうユーザテストをやらないわけにはいかないような気さえしますよw
ユーザビリティは一日にしてならず・・・ですね。